安心を届ける看護のコツと声かけ例


この記事でわかること

  • 患者に優しい医療・看護の本質
  • 患者が「優しい」と感じる瞬間と理由
  • あらゆる医療現場(外来、病棟、在宅、慢性期、回復期)で使える5つの実践スキル
  • やりすぎの優しさと適切な距離感の違い
  • 多職種連携・チーム医療で「優しさの質」を高める方法
  • 忙しい中でも優しさを継続する省エネ実践

結論:患者に優しい医療・看護とは「不安を減らし、安心を届ける」こと

医療を受けるということは、誰にとっても不安を伴う経験です。病気の見通し、人間関係、治療の痛みや生活の変化―患者はさまざまな心配を抱えています。

どれほど医学的に正しいケアでも、

  • 説明が足りない
  • 声かけがない
  • 配慮のない動作

といったことがあると、患者は不安を強めてしまいます。

そのため、優しい医療とは 「患者の不安を最小限にし、安心して治療に取り組める状態をつくること」 と考えられます。
これは急性期・慢性期・外来・在宅の別にかかわらず、あらゆる医療現場に共通する大切な視点です。


なぜ“優しさ”が医療の質向上につながるのか

優しさは単なる「気配り」ではなく、コミュニケーションや説明の質が患者満足度や治療への参加意欲と関連することを示す研究もあり、医療の質を支える一要素と考えられます。

● 患者満足度の向上

説明の丁寧さや態度の落ち着きは、国内の調査で患者満足度との関連が示されています。

● 治療への協力・継続につながる

患者の安心感や医療者への信頼が高いほど、服薬やリハビリなど治療への参加が促される傾向があるとする報告もあります。

● 誤解やトラブルを防ぐ

医療トラブルや苦情の分析では、コミュニケーション不足や説明不足が背景要因の一つとして挙げられることが少なくありません。
丁寧な説明や情報共有は、誤解を減らし、安全性の向上にもつながると考えられます。

このように、優しさを伴ったコミュニケーションは、医療安全や医療の質を支える重要な要素の一つだと捉えられます。


患者が「優しい」と感じる瞬間(調査・事例)

高度な医療技術そのものよりも、患者の気持ちや理解度に寄り添った行動が「優しさ」として受け取られることが多くあります。

● よくある患者の声

  • わかりやすい説明をしてくれた
  • 話をよく聞いてくれた
  • 不安に気づき、声をかけてくれた
  • 表情や動作が落ち着いていて安心できた

患者にとって「丁寧に扱われている」という実感は、安心を得るうえでとても重要です。


医療現場でのリアルなケース例

急性期病院だけでなく、外来診療、慢性期医療、地域包括ケア、在宅医療など、さまざまな医療・介護資源があります。
病院・施設・地域・在宅が連携して患者を支える取り組みも各所で進められており、こうした多職種・多機関連携の中で「優しさの質」を高めることが求められています。

代表的な場面として、例えば次のようなものがあります。

● 外来

  • 初診患者に「今日はどんなことでご心配されていますか?」と声をかけ、不安やニーズを整理する。

● 一般病棟

  • 検査や処置の前に「今から何をするのか」「どれくらい時間がかかるのか」を簡潔に説明する。

● 在宅医療

  • 生活背景に合わせた言葉選びを意識し、家族の負担や心配にも目を向ける。

● 高齢者ケア

  • 表情をよく観察し、ペースや理解度を合わせて対応する。

あらゆる現場で「普遍的な優しさの実践」が求められています。


患者に優しい医療を実現する5つの基本スキル

ここでは、どの医療現場でも活かせる「再現可能な技術」としての優しさを、5つのスキルに整理します。


① わかりやすく伝えるコミュニケーション

患者は診療時に受け取った情報のすべてを理解・記憶できるとは限らず、内容の一部しか覚えていないケースもあることが研究で指摘されています。
そのため、「わかりやすさ」は優しさの重要な要素です。

ポイント

  • 大事なことは3つ程度に絞って伝える
  • 医療用語は必ず言い換えて説明する
  • 図・資料・ジェスチャーなどで“見える化”する
  • 最後に「不安な点はありますか?」と確認する

② 患者の視点で行動する「想像力」

看護師や医療者にとっては当たり前の動作でも、患者にとっては初めてで不安を伴うことが少なくありません。

具体例

  • ベッド移動前に「少し揺れますよ」と一声かける
  • 清潔ケア中に「寒くないですか?」と確認する
  • 医療者のペースではなく、患者のペースに合わせて説明・動作を行う

どの現場でも使える、普遍的なスキルです。


③ 痛み・不安を読み取る観察力

痛みや不安を言葉にできない患者も多くいます。
そのサインに気づく 観察力 が、優しさの一部です。

観察するポイント

  • 表情の変化
  • 呼吸の浅さ・速さ
  • 落ち着きの有無など行動の変化
  • 訴えの回数や内容の変化

外来や在宅でも役立つ視点です。


④ 落ち着いた態度で接する力

忙しい場面ほど、医療者の雰囲気は患者の安心感に影響します。
声や表情、動作に「落ち着き」があるだけで、患者の受ける印象は大きく変わります。

  • 歩き方や動きが慌ただしくなりすぎないよう意識する
  • 自分の呼吸を整えてから患者と向き合う
  • 必要な場面では、短くても一言声をかける
  • 表情や声のトーンを一定に保つよう心がける

これは、**すべての現場で必要な“態度の技術”**です。


⑤ 多職種で支える姿勢

患者の安心は、一人の医療者の努力だけでは支えきれません。

  • 医師
  • 看護師
  • リハビリ職
  • 薬剤師
  • 栄養士
  • 介護職
  • 在宅支援者 など

多職種が情報を共有し、それぞれの専門性を発揮することで、患者にとっての「一貫した優しさ」が生まれます。このような連携の中で優しさの質を高めることが重要です。


◆ ケース別:すぐ使える短い会話例(声かけ例)

■ 外来の会話例(初診患者・不安が強い人に)

● 会話例1:初回対応

患者「初めてなので、少し不安で…」
看護師「そうですよね。今日はどういったことで一番心配されていますか?」

● 会話例2:検査前

看護師「この検査は5分ほどで終わります。痛みはありませんので、安心してくださいね。」

● 会話例3:説明後の確認

看護師「いまの説明で、気になるところや聞きそびれたことはありませんか?」


■ 一般病棟の会話例(処置・検査・日常ケア)

● 会話例1:処置前

看護師「これから点滴を交換しますね。チクッとする間だけお知らせします。」

● 会話例2:体位変換

看護師「少し体を動かしますね。痛むところがあったら教えてください。」

● 会話例3:不安の拾い上げ

患者「夜になると不安で…」
看護師「そうだったんですね。どんなときに不安が強くなりますか?一緒に考えましょう。」


■ 在宅医療の会話例(家族支援・生活背景の配慮)

● 会話例1:訪問開始時

看護師「今日は体調どうですか?無理のない範囲で一緒に確認していきましょう。」

● 会話例2:家族への配慮

家族「食事がなかなか進まなくて…」
看護師「心配ですよね。いつもより少しでも食べられている時間帯はありますか?」

● 会話例3:生活に合わせた説明

看護師「このお薬は“朝ごはんの後”など、生活の流れに合わせて続けられそうなタイミングはありますか?」


■ 高齢者ケアの会話例(認知症・理解度の個別対応)

● 会話例1:ゆっくり確認

看護師「〇〇さん、いまから移動しますね。私と一緒にゆっくり進みましょう。」

● 会話例2:安心の声かけ

患者「どこへ行くの?」
看護師「検査に行きますよ。10分ほどで戻ってきますので、心配しなくて大丈夫ですよ。」

● 会話例3:ペースを合わせる

看護師「急がなくて大丈夫ですよ。〇〇さんのペースで進めていきますね。」


■ ケアユニットの会話例

※刺激・不安が強い患者を想定した短い声かけ

● 会話例1:処置前

看護師「これから胸の音を聞きますね。痛くないので安心してください。」

● 会話例2:状態観察

看護師「呼吸が少し早いですね。苦しくないかだけ教えてくださいね。」

● 会話例3:安心の提供

患者(身振りで不安を示す)
看護師「ここにいますので大丈夫ですよ。必要なときはすぐ声をかけてくださいね。」


■ 多職種連携の場面の会話例(連携が見える声かけ)

● 会話例1:説明の一貫性

看護師「いまの説明、リハビリの先生とも共有していますので安心してくださいね。」

● 会話例2:他職種につなぐ

看護師「お薬について心配な点があるようなので、薬剤師さんにも一緒に確認してもらいましょうか。」

● 会話例3:家族支援

家族「どこに相談したらいいかわからなくて…」
看護師「地域の相談窓口も一緒にご案内できますので、必要なときに声をかけてくださいね。」


「やりすぎの優しさ」にならないために

優しさは、“なんでも代わりにしてあげること”とは限りません。
むしろ、患者の自立の機会を奪ってしまうような関わりは、結果として回復やQOLの低下につながる可能性もあります。

そのため、次の3つを基準にバランスを考えることが大切です。

  • 患者の 安全 が守られているか
  • 患者の 尊厳 が尊重されているか
  • 患者の 主体性 が保たれているか

この3点を意識することで、「甘やかし」ではない、適切な距離感の優しさを保ちやすくなります。


忙しい中で優しさを継続する省エネ思考

忙しい医療現場で、常に全力の気配りを続けるのは現実的ではありません。
そこで重要になるのが、優しさを仕組みとして組み込む工夫です。

  • 説明のテンプレートを作る
  • 情報共有ツールを活用し、引き継ぎをスムーズにする
  • ケア基準を統一し、誰が入っても一定の質を保てるようにする
  • 記録業務を見直し、患者と関わる時間を確保する

こうした工夫によって、「優しさが自然と生まれる環境」に近づけることができます。


よくある質問(Q&A)

Q1:優しさと時間効率は両立できますか?

工夫を取り入れることで、優しさと時間効率の両立ができたと感じるケースも報告されています。
説明のテンプレート化や声かけの習慣化などは、その一例です。


Q2:コミュニケーションが苦手でも大丈夫ですか?

コミュニケーションは“生まれつきのセンス”だけで決まるものではなく、技術として学ぶことで再現性のある対応がしやすくなることが期待できる分野です。
場面ごとの言い回しや対応例を学ぶことで、少しずつ自信を持って関わりやすくなります。


Q3:学生でも学べますか?

はい。
学生のうちから、基本的なコミュニケーションスキルや患者への配慮を学んでおくことは、実習や新人期の不安軽減に役立つ可能性があります。


まとめ

患者に優しい医療・看護とは、特別なことをすることではなく、「不安を減らし、安心を届ける行動」を積み重ねることです。

  • 説明のわかりやすさ
  • 気持ちに寄り添う声かけ
  • 小さな変化に気づく観察力
  • 落ち着いた態度
  • 多職種で支える連携

これらはすべて、どの現場の医療者でも磨いていけるスキルです。
忙しさや人手不足といった現実があるからこそ、個人の頑張りだけに頼らず、「優しさが生まれやすい仕組みや環境」を作っていくことが重要になります。

愛知県をはじめとするさまざまな地域で、患者さんと医療者の双方に負担が少ない形で「優しさ」を続けていく。そのための一歩として、本記事の内容が日々の実践や学びのヒントになれば幸いです。