結論:看護師は「肉体 × 感情」の両面で高度な労働をしている

看護師が毎日「疲れた…」「しんどい」と感じるのは、決しておかしいことではありません。
看護は、**身体を使うケア(肉体労働)**と同時に、**相手の感情に寄り添い、自分の感情を調整し続ける仕事(感情労働)**でもあるからです。

つまり看護師は、
肉体労働と感情労働を同時にこなす専門職であり、その負担が大きくなるのはごく自然なことです。

この記事では、

  • なぜこんなに疲れるのか
  • 負担の正体はどこにあるのか
  • 今日からできる心と体を守るための工夫

を、やわらかい言葉で、かつ可能な限り根拠に基づいて解説していきます。


◆まず伝えたいこと:疲れるのは“あなたのせい”ではない

看護師が疲れやすいのは、個人の努力や根性では変えられない要因が重なっているからです。

  • ケア・記録・家族対応が同時進行で求められる
  • 夜勤や不規則勤務により体内リズムが乱れやすい
  • 急変や医療安全への緊張感が常にある
  • 患者・家族の感情に寄り添う対人ケアが続く

こうした環境で働いていれば、誰でも心身ともに疲れて当然です。
だからこそ、まずは 「私が弱いからではない」 と知っておくことが大切です。

もちろん、強い疲労や体調不良が続く場合は、自己判断で無理を続けず、産業医・主治医・職場の相談窓口など専門家に相談することも重要です。


◆看護師の肉体的負担:科学的に見ても“重労働”

看護の現場は、病院・クリニック・施設など形は違っても、身体への負担が大きい仕事だという点は共通しています。

● 体位変換・移乗・清拭など、頻回な反復作業

多くの病院や施設では、看護師やケアスタッフが行う体位変換・移乗・清拭などのケアは、1日に数十回に及ぶこともあり、年間では1万回前後になるケースもあると報告されています。

このような反復動作が積み重なることで、腰・肩・手首などへの負担が蓄積していきます。


● 長時間の立ち仕事と夜勤で体内リズムが崩れやすい

日勤・準夜・深夜などのシフト勤務や、立ちっぱなしの業務が続くことで、体内時計(サーカディアンリズム)が乱れやすくなります。結果として、

  • 強い倦怠感
  • 集中力の低下
  • 自律神経の乱れ

などが起こりやすくなります。

「夜勤明けは体がついてこない…」と感じるのは、気合いの問題ではなく、生理学的に見ても自然な反応です。


● 腰痛・肩痛が多いのは“業務特性”によるもの

看護師の腰痛は国内外の多くの研究で半数以上の人が経験すると報告されており、中には50〜80%前後とする報告もあります。
その背景として、以下のような動作が挙げられます。

  • 中腰でのケア
  • 不意の体重負荷
  • 無理な姿勢での介助・清拭
  • 急な対応による無理な動き

つまり、身体の疲労や痛みは「自分のケアの仕方が悪いから」ではなく、業務特性として負担が大きい構造にあると言えます。


◆看護師の感情労働:人の気持ちに寄り添い続ける負担

看護師の仕事は、体だけでなく心のエネルギーも大きく消費する仕事です。

● 感情労働とは?

**感情労働(Emotional Labor)**とは、
「自分の感情を調整しながら、相手にふさわしい感情表現を行うこと」を求められる仕事を指します。

医療・福祉・接客などの対人援助職で顕著な概念で、社会学者アーリー・ホックシールドによって提唱されました。
看護師はこの感情労働を、まさに日常的に担っています。


● なぜ看護師の感情労働は大きいのか

① 患者・家族の揺れる感情に寄り添う

患者や家族は、病気や痛み・不安・怒り・悲しみ・希望など、多くの感情を抱えています。
看護師はそれらを否定せず受け止めつつ、自分の感情を整えながら対応する必要があります。

② 自分のつらさを“見せにくい”場面が多い

疲れていても、焦っていても、心がざわついていても、
「落ち着いた態度」「優しい声かけ」が求められる場面が続きます。

自分のつらさをなかなか表に出せないことも、消耗につながります。

③ 苦情や相談への対応

ときには怒りや不満の矛先が自分に向くこともあります。
それでも穏やかに話を聴き、冷静に対応する必要があり、大きな精神的エネルギーを使います。

④ 急変・安全管理の中でも感情を制御する

緊迫した場面でも、患者や家族には「大丈夫ですよ」「一緒に頑張りましょう」と声をかけ続ける必要があります。
自分の不安を飲み込み、平静を保ちながら動き続けること自体が感情労働です。

⑤ 多職種連携の中で関係性を保つ配慮

医師、リハビリ、薬剤師、介護職など、多くの職種と協働する中で、
言葉選びや態度に気を配りながら、関係性を維持・調整することも感情労働の一部です。


● 感情労働が“しんどさ”につながる理由

感情労働は目に見えませんが、脳と心のエネルギーを大量に使うため、次のような感覚として表れやすくなります。

  • 何となくいつも「気疲れ」している
  • 感情が枯れてしまったように感じる
  • 落ち込みや無気力が続く
  • 人と話すのがつらい日が増える
  • 「今日はもう何も受け止められない…」と思う
  • 仕事が終わった途端どっと疲れが出る

これは決して“甘え”ではなく、感情労働が蓄積した結果として起こる自然な反応です。

看護の疲れには、労働時間や人員配置などさまざまな要因がありますが、感情労働はその中でも大きな要素の一つと考えられています。


◆【愛知県の医療現場】地域特性から見る看護の負担

ここでは、愛知県という地域に少し目を向けてみます。

● 医療機関が集積する地域としての特徴

愛知県、とくに名古屋市周辺には多数の医療機関が集まっており、救急医療や高度医療を担う施設も少なくありません。
その分、医療依存度や看護必要度の高い患者を担当する機会が多い現場もあるとされています。

ケアの密度や情報量、求められる判断の難しさが増すことで、肉体的・感情的な負担が大きくなりやすい環境の一つと言えるでしょう。


● 離職率データから見える“働き続ける難しさ”

日本看護協会などの調査では、愛知県の常勤看護職員の離職率が全国平均よりやや高い傾向が報告された年もあります。
背景には、

  • 医療機関が多く、転職先の選択肢が比較的多いこと
  • 忙しい現場が多いこと

など、複数の要因が絡んでいると考えられます。


● 都市部と郊外で異なる負担構造

同じ愛知県内でも、

  • 都市部:患者数が多く業務密度が高くなりやすい
  • 郊外:人員確保が難しく、一人あたりの負担が大きくなりやすい

といった違いがあり、地域によって負担のかたちが異なるのも特徴です。


◆肉体労働 × 感情労働の負担を軽くする実践対策

ここからは、今日からできる小さな工夫をいくつか紹介します。
すべてを一度に変える必要はありません。「できそう」と思えるものからで十分です。

● ① ボディメカニクスで身体負荷を減らす

  • ベッドや車椅子の高さを自分の腰に合わせて調整する
  • 腰ではなく膝を曲げて支える
  • できるだけ支点(てこ)を意識して動く

こうしたボディメカニクスの工夫は、腰や肩の負担を軽減し、結果的に心の余裕にもつながります。


● ② 申し送り・役割分担で“抱え込み”を防ぐ

情報共有や申し送りの質を高めることで、
「自分だけが情報を持っている/抱えている」という状況を減らせます。

  • 要点を整理した申し送り
  • チームでの役割分担の見直し
  • “一人で抱え込まない”文化づくり

これらは、感情労働の負担をチームで分かち合うための重要なポイントです。


● ③ 感情労働を軽くするコミュニケーション術

  • 相手の感情そのものを否定しない
  • すべてを一人で受け止めようとしない
  • 自分の感情も「なかったこと」にせず大切にする

「寄り添うけれど、飲み込まれない」距離感=**適切な境界線(バウンダリー)**を持つことが、心の健康を守ります。


● ④ 睡眠・食事・休息のセルフケア

心の疲れは、身体のケアによって軽くなることも多くあります。

  • 夜勤後は「すぐに完璧に眠らなきゃ」と焦らない
  • 短時間でも目を閉じて横になる
  • 温かい飲み物や軽いストレッチで体をゆるめる

など、自分なりの「回復ルーティン」を持つことが、感情の安定にもつながります。


● ⑤ eラーニングで“判断の迷い”を減らす

判断に必要な知識や視点が身につくと、

  • 何を優先すべきか
  • どのように説明すればよいか

が整理され、迷う場面が減ることが期待されます。

結果として、感情の揺れが少なくなり、感情労働の負担を軽くできる可能性があります。
そうした意味で、学びはあなたの心を守る“防具”のような役割を果たしてくれます。


◆看護学生向け:働く前に知ってほしい“感情労働のリアル”

● “慣れ”だけでは乗り越えられない

現場に出てからの「しんどさ」は、慣れだけでは乗り越えられない部分もあります。
とくに感情労働は、知識・技術・コミュニケーション力によって負担を軽くできる側面があります。


● 学びがあなたの心を守る

「この場面では、こう動けばいい」「こう説明すれば伝わりやすい」という見通しが持てると、
不安が和らぎ、感情の揺れも少なくなります。

学生のうちから、「感情労働」という視点を知っておくことは、自分を守る準備にもなります。


◆看護師が“しんどさ”を感じたときのQ&A

● Q1:疲れすぎて何も考えられない日は?

まずは休息を優先してOKです。
「休んでから考える」「今日は回復に専念する」と割り切ることも、自分を守る大切な選択です。


● Q2:精神的に限界を感じたら?

短い時間でも、誰かに話すだけで負担が軽くなることがあります。

  • 信頼できる同僚や先輩
  • 看護管理者
  • 院内・外の相談窓口

などを活用し、一人で抱え込まないことが大切です。必要に応じて専門家への相談も検討しましょう。


● Q3:キャリアチェンジは「逃げ」でしょうか?

いいえ、自分が健やかに働ける場を選ぶことは前向きなキャリア選択です。
部署異動や転職、働き方の見直しは、より良い看護を続けるための一つの戦略と考えてよいでしょう。


● Q4:続けやすい学び方は?

1日5分の動画学習や、気になるトピックだけをピンポイントで学ぶなど、
小さく・細く・長く続けるスタイルが負担になりにくくおすすめです。

「少しずつでも積み重ねること」が、自信と安心感につながります。


◆自分を守るためのセルフケア行動チェックリスト

【身体を守る行動】

  • 無理な姿勢でのケアを避けるよう意識できた
  • ベッドの高さ調整をしてから動いた
  • 休憩中に1〜2分だけでも体をゆるめる時間を取れた
  • 夜勤後は「完璧に寝なきゃ」と焦らず、体の回復を優先できた

【感情を守る行動】

  • 相手の感情を“全部受け止めない”という線引きができた
  • 自分の気持ちを押し殺さず、「今どう感じているか」に気づけた
  • 苦情・不安を一人で抱え込まず、誰かに共有できた
  • つらい場面の後、深呼吸や短いリセット時間を取れた

【仕事の抱え込みを防ぐ行動】

  • 要点を整理して申し送りができた
  • 必要に応じて他スタッフに声をかけ、業務を分担できた
  • 「自分だけが情報を抱える」状況を作らないよう意識できた

【学びによる安心確保】

  • わからない点を調べる・先輩に聞くなど“迷いを減らす行動”ができた
  • 短い学習(5分動画・スキマ学習)を1つでも実行できた
  • 判断の根拠を持って動けた場面があった

◆チェックが5つ以上ついたら

あなたは今日、自分を守る行動がしっかりできています。
心と体の負担が蓄積しにくい、とても良い状態です。

◆チェックが2つ以下の場合

少し疲れが溜まっているサイン
できるものを1つだけでも取り入れると、翌日の負担が大きく変わります。


◆まとめ:看護は「肉体 × 感情 × 技術」の総合職

あなたが日々行っているケアは、
身体にも心にも寄り添う、唯一無二の専門性を持った仕事です。

だからこそ、疲れるのは当然。
どうか、「しんどい自分」を責めないでください。少しの工夫と、少しの学びを重ねることで、
看護のしんどさは“ゼロ”にはならなくても、「続けやすさ」を高めることは十分に可能です。