季節に左右されない備え、一般の方と医療者双方にわかりやすく


この記事で分かること

  • 冬に感染症が流行しやすい科学的な理由
  • インフルエンザ・RSウイルス・ノロウイルスなどの特徴
  • 日常生活でできる具体的な予防行動
  • 医療現場で押さえておきたい患者指導のポイント
  • 愛知県における感染症の季節性・地域動向

冬に感染症が広がりやすい理由

冬に感染症が増える根本的な理由は、乾燥・低温・からだの抵抗性の低下・生活環境の変化が重なることにあります。

空気が乾燥し、ウイルスが長時間生き残る

低湿度の環境(目安として湿度40%未満)では、インフルエンザウイルスが空気中で生存しやすくなり、結果として感染が広がりやすくなる可能性があると報告されています。
乾燥により飛沫が小さくなって空気中を漂いやすくなることも、拡散しやすい要因の一つと考えられています。

寒さで人が室内に集まり、換気が不足する

暖房を使う季節は、どうしても窓を閉めたまま過ごす時間が長くなり、密閉空間になりやすくなります。
人が集まる環境で換気が不十分だと、飛沫やエアロゾルがたまりやすくなり、感染が広がりやすい状況が生まれます。

寒さ・疲労で抵抗力が下がりやすい

睡眠不足やストレスが続くと、気道粘膜の防御機能が弱まり、「感染しやすい状態」が生まれます。
「なんとなく疲れが抜けない」「体調がすぐれない」と感じる時期は、意識的に休養とセルフケアをとることが大切です。


冬に多い主な感染症

インフルエンザ

特徴:
高熱、筋肉痛、強い倦怠感が急に出ることが多い感染症です。

感染期間:
発症1日前〜発症後5〜7日程度は、他の人に感染させる可能性があるとされています。

注意点:
高齢者や心疾患・呼吸器疾患・糖尿病などの基礎疾患がある方では、肺炎や脳症などの合併症リスクが高くなります。

医療者向けポイント
→ 高齢者施設や慢性疾患患者の発熱時には、早期の検査導入と重症化リスクの評価が、合併症の回避に重要です。


COVID-19(新型コロナウイルス感染症)

季節性はインフルエンザほど明確ではありませんが、低湿度や人が密集しやすい環境が感染拡大に影響する可能性が、いくつかの研究で指摘されています。
そのため、季節に関わらず、ワクチン接種・換気・手洗い・マスク着用などの基本的な感染対策を継続することが重要です。


RSウイルス(RSウイルス感染症)

乳幼児では、肺炎や細気管支炎の主な原因の一つとなるウイルスであり、2歳までにほとんどの子どもが一度は感染すると言われています。
高齢者では、かぜ症状で経過することも多い一方で、基礎疾患や免疫低下がある場合は重症化することもあります。

医療者向けポイント
→ 乳児で陥没呼吸・哺乳力低下・喘鳴などがみられる場合や、高齢者施設での集団発生が疑われる場合は、早期の医療介入と観察強化が必要です。


ノロウイルス

特徴:
冬場に急増し、激しい嘔吐・下痢・腹痛を引き起こします。

感染経路:
汚染された食品や飲料を介した経口感染や、患者の嘔吐物・便からの二次感染が中心です。

最も重要な対策:
ノロウイルスに対しては、アルコール手指消毒だけでは不十分なことがあり、石けんと流水によるていねいな手洗いが予防の基本であり、より有効とされています。
手洗いに加えて、必要に応じて手指消毒剤を補助的に使うとよいでしょう。

医療者向けポイント
→ 嘔吐物や便の処理には、次亜塩素酸ナトリウムの使用が推奨され、マスク・手袋・エプロンなどのPPE装着が基本です。処理後の環境消毒とリネン管理も重要です。


毎日の生活でできる予防行動

ここでは、一般の方向けに「今日からできること」をやさしく整理します。

① ワクチンは“重症化を防ぐ”ための大事な備え

インフルエンザワクチンは、完全に感染を防ぐワクチンではありません
しかし、シーズンや年齢によって差はあるものの、発症や重症化のリスクを下げることが多くの研究で示されています。
「自分を守る」だけでなく、「家族や周りの人を守る」という意味でも大切な対策です。

医療者向けポイント
→ 高齢者・基礎疾患患者には、接種のメリットと副反応を分かりやすく説明し、「かかりつけ医と相談したうえで接種を検討してもらう」よう案内するとよいでしょう。


② 正しい手洗いが一番確実

一般の方向けの目安:
20秒以上を目安に、「指先・親指・手首」までていねいに洗います。ハッピーバースデーの歌を2回くらい口ずさむ長さが目安と言われることもあります。

医療者向けの目安:
WHO推奨の手洗い手技に沿って、40〜60秒を基準にすることが推奨されています。

ノロウイルスに対しては、「アルコール消毒だけでなく、石けんと流水での手洗いを優先する」という点を、患者さんや家族にも丁寧に説明すると理解が得られやすくなります。


③ 室内の湿度は 40〜60%を目安に

乾燥するとウイルスが拡散しやすくなるほか、気道粘膜が乾燥して防御機能も弱まりがちです。
家庭では、加湿器や濡れタオル、洗濯物の室内干しなどを活用して、相対湿度40〜60%程度を目安に保つとよいでしょう。


④ マスクと咳エチケット

マスクの一番大きな役割は、**咳やくしゃみの飛沫を周囲に飛ばさないこと(他の人にうつさないこと)**です。
正しく着用すれば、自分がウイルスを吸い込むリスクを減らす可能性もありますが、マスクだけで感染を完全に防げるわけではありません。

手洗い・換気・人混みを避ける・ワクチン接種など、複数の対策を組み合わせることが大切です。


⑤ 睡眠・栄養・運動・ストレスケア

  • 睡眠: 6〜7時間前後を目安に、できるだけ同じ時間に寝起きする
  • 食事: タンパク質(肉・魚・卵・大豆製品)と、野菜・果物をバランスよく摂る
  • 運動: 無理のない範囲で、1日20〜30分程度のウォーキングや軽い体操
  • ストレス: 深呼吸や短い休憩、好きなことに集中する時間を作る

医療者向けポイント
→ 高齢者や慢性疾患をもつ患者さんには、「完璧」よりも「続けられること」を一緒に探し、具体的な行動に落とし込む支援が重要です。


⑥ 早めに受診すべきサイン

次のような症状が見られる場合は、我慢せず早めの受診が大切です。

  • 息苦しさ・呼吸がしんどい
  • 高熱が続いている
  • 水分がとれない、尿が極端に減っている
  • 意識がぼんやりしている、反応が鈍い

特に、基礎疾患のある方・高齢者・乳幼児・妊婦では、重症化のリスクが高いため、家族を含めて「どのタイミングで受診すべきか」を事前に共有しておくことが重要です。


医療現場で押さえておきたい「よくある質問」

Q1:インフルエンザとかぜの違いは?

かぜは、喉の痛み・鼻水・くしゃみなどの「上気道症状」が中心で、発熱も軽度〜中等度のことが多いです。
インフルエンザは、高熱(38℃以上)と全身の筋肉痛・関節痛・強い倦怠感が急に出ることが特徴的です。

ただし、症状だけで完全に区別することは難しい場合も多く、最終的な診断には医療機関での診察や検査が重要であることを伝えましょう。


Q2:マスクは自分の予防にも効果がある?

マスクは、咳やくしゃみの飛沫を周囲に広げない(他の人にうつさない)効果が最も大きいとされています。
正しく着用すれば、自分がウイルスを吸い込むリスクを減らす可能性も報告されていますが、マスクだけで感染を完全に防げるわけではありません。

→ 手洗い・換気・混雑した場所を避ける・ワクチン接種など、複数の対策を組み合わせることが重要であると説明しましょう。


Q3:ビタミンCは本当に効く?

ビタミンCを摂ること自体は、健康づくりの一環として悪いことではありませんが、「ビタミンCを飲めばインフルエンザやかぜを確実に予防できる」という明確なエビデンスはありません。
一部の研究では、かぜ症状の期間や強さをわずかに短縮する可能性も示されていますが、効果は限定的です。

→ 「ビタミンCだけに頼るのではなく、バランスのよい食事と、手洗い・ワクチン接種・換気などの基本的な感染対策を優先すること」が重要であると伝えましょう。


愛知県で感染症が増える時期と医療者の役割

愛知県感染症情報センターのデータでは、例年12月上旬〜1月頃にインフルエンザの流行が始まり、1〜3月にピークを迎えるパターンが多いとされています。
一方で、最近のシーズンでは、10月に流行入りする年も報告されています。

医療者にとって重要なポイントは、次のとおりです。

  • 愛知県感染症情報センターの「感染症週報」や「インフルエンザ発生状況」を定期的に確認する
  • 流行開始の早まりやピーク時期の変化に応じて、
    • 院内ワクチン接種キャンペーンの時期
    • 発熱外来の体制・外来の人員配置
    • 入院患者・施設利用者の面会制限や院内感染対策
      を柔軟に調整する

地域の最新情報を踏まえて患者指導や院内体制を整えることが、重症化予防と医療提供体制の維持につながります。


まとめ

冬は「乾燥」「密閉空間」「からだの抵抗力の低下」が重なり、感染症が広がりやすい季節です。
インフルエンザ、COVID-19、RSウイルス、ノロウイルスなど、重症化に注意が必要な感染症も少なくありません。

だからこそ、

  • 手洗い
  • 室内の湿度管理
  • マスク着用と咳エチケット
  • ワクチン接種
  • 体調不良時の早めの受診

といった**基本的な対策を“現実的に続けること”**が、最も確実な感染予防につながります。

家庭でできる対策と、医療者が押さえておきたい視点をわかりやすく伝えていくことで、
患者さんや家族が安心して冬を乗り切るための支えになれば幸いです。

なお、ここで紹介した内容は一般的な情報であり、すべての方にそのまま当てはまるとは限りません。
症状に不安がある場合や、持病がある方・妊婦・乳幼児・高齢者の体調が気になる場合は、自己判断に頼らず、かかりつけ医や医療機関に早めに相談してください。


参考文献(一例)

(※本文では個別引用をしていませんが、内容作成の根拠として参照しています)

  • 厚生労働省「インフルエンザQ&A」
  • 国立感染症研究所「インフルエンザとは」「RSウイルス感染症」「ノロウイルス感染症」
  • CDC:Influenza Prevention & Control
  • WHO:Seasonal Influenza Fact Sheet
  • 愛知県感染症情報センター「感染症週報」
  • Moriyama M, et al. Seasonality of Respiratory Viral Infections, Annual Review of Virology, 2020