この記事で分かること(要点)
- 糖尿病患者の“続けられる生活習慣づくり”を支える看護の基本
- 血糖コントロール目標(JDS準拠)の考え方と個別化のポイント
- 食事・運動・セルフモニタリングを支援する具体的な声かけ
- 内服薬・インスリン療法で看護師が押さえる安全な説明の仕方
- 行動変容を促すフィードバックと愛知県での地域連携の視点
■結論|看護師・医療者が果たす役割は“患者の継続できる生活習慣づくり”を支えること
糖尿病ケアにおいて最も重要なのは、患者さんが「無理なく続けられる生活習慣」を自ら選び取り、セルフケアを継続できるよう専門職が支援することです。
食事・運動・薬物療法・セルフモニタリングのいずれも単独では不十分であり、“小さな継続”の積み重ねが血糖コントロール改善や合併症予防につながります。
愛知県の医療現場でも「患者さんにうまく説明できない」「指導しても継続が難しい」といった声が多く聞かれます。本記事では、現場の看護師・医療者が明日から実践できる“患者セルフケア支援”のポイントを、最新エビデンスとともに整理します。
看護師の役割|患者を“成功体験”へ導く支援
患者指導で最も大切なのは、患者さん自身が「これならできそう」と思える 小さな成功体験の積み重ね です。行動変容モデル(トランスセオレティカルモデル)でも、患者さんの意欲は段階的に変化するとされ、過度な目標設定は逆効果になり得ます。
看護師の役割は、
- 正論で説得することではなく、
- 患者さんの状態(前熟考期〜維持期)に応じて、
- できる行動を一緒に見つけ、達成感を得られるよう支えること
にあります。
例:
- 「白米を茶碗1杯 → 0.8杯にしてみる」
- 「夜に10分だけ歩いてみる」
- 「間食を“ゼロ”ではなく“半分”に」
こうした“小さな一歩”を尊重して支援することが、セルフケア継続に直結します。
糖尿病の基礎理解|患者指導の前に知っておくべき要点
指導の質は、医療者側の“病態理解”によって大きく変わります。しかし、すべての専門知識を暗記する必要はありません。看護師が押さえるべきは次の3つです。
- 病型(1型・2型・妊娠糖尿病)の違い
- 血糖の動きと合併症リスク
- 病態に応じた治療・生活指導の視点
1型・2型・妊娠糖尿病の特徴と指導への影響
●1型糖尿病
自己免疫などにより膵β細胞が破壊され、インスリンがほぼ枯渇。
➡ インスリンは必須であり、欠かせない理由を丁寧に説明することが大切。
●2型糖尿病
インスリン抵抗性+分泌不全が中心。
➡ 食事・運動などの生活習慣介入が大きな効果を生む領域。
愛知県でも最も多く、患者指導の中心となります。
●妊娠糖尿病
妊娠中の耐糖能異常で、母児ともにリスクが増加。
➡ 妊婦健診でのスクリーニング・栄養指導が重要。
病型の理解は、その後の治療方針・生活指導の内容にも直結します。
血糖コントロール目標は“個別化”が原則(日本糖尿病学会)
日本糖尿病学会では、成人患者の合併症予防を目的とする場合、
HbA1c 7.0%未満を一つの目安としつつ、
年齢・罹病期間・合併症・低血糖リスクなどを踏まえて
6.0〜8.0%の範囲で個別に目標設定すること を推奨しています。
ポイントは数字そのものよりも、
「患者の背景に応じて最適な目標が変わる」 という考え方を共有することです。
低血糖・高血糖の症状と安全確保
- 低血糖:ふるえ・冷汗・動悸・空腹感、進行で意識障害
→ 特に高齢者では転倒のリスクが高く、**“迷ったら補食”**が基本方針。 - 高血糖:口渇・頻尿・倦怠感、続く場合は感染症や脱水の可能性
→ 変化に早期気づき、主治医への共有が重要。
生活習慣の3本柱|患者セルフケア支援の実践ポイント
2型糖尿病の治療では、生活習慣の見直しが中核です。
看護師が押さえるべきポイントは「無理なく継続できる工夫を一緒に考えること」。
食事|制限より“選び方・量・タイミング”の調整
患者さんが取り組みやすい支援ポイント:
- 選び方:白米→雑穀米、ジュース→水・お茶など
- 量:主食の量を整えると血糖の乱高下が減りやすい
- タイミング:夜遅い食事は高血糖に直結するため見直しを提案
愛知県では味噌カツ・手羽先・ラーメンなど地域性の強い嗜好もあります。
➡ “禁止”ではなく、“頻度と量のコントロール”を共に考えることが大切。
運動|有酸素+レジスタンスが効果的(JDS推奨)
日本糖尿病学会の治療ガイドでは、
- 中等度の有酸素運動(速歩)を週150分程度
- レジスタンス運動を週2〜3回
の組み合わせを推奨しています。
患者さんには、
「毎日でなくて良い」「できた日の積み重ねでOK」
と伝えることでプレッシャーを軽減できます。
セルフモニタリング|数字を“気づき”に変える支援
SMBGの活用は、患者の“気づき”を促し、セルフケア継続につながります。
例:
- 「運動した日は血糖が安定していますね」
- 「この食事のあと少し上がっています。どう工夫できそうですか?」
数字を叱責する材料ではなく、学びと改善の材料に変換する支援が重要です。
薬物療法|看護師が押さえるポイント
作用機序の詳細よりも、患者さんが“安心して続けられるよう支えること”が役割です。
内服薬(メトホルミン・DPP-4・SGLT2など)
- メトホルミン:胃部不快感が出やすい → 少量から開始
- DPP-4阻害薬:高齢者でも使いやすい、副作用少なめ
- SGLT2阻害薬:体重減少・血圧低下のメリット
→ 一方で利尿作用に伴い、脱水・尿路感染リスクがあり、特に高齢者や利尿薬併用時は注意。
看護師の役割は、
“なぜその薬が必要なのか”を共有し、副作用の早期気づきを促すこと。
インスリン療法|保存・注射・低血糖対応
指導の要点:
- 針は毎回交換
- 注射部位はローテーション(脂肪萎縮予防)
- 未開封は冷蔵保存、使用後は製剤ごとの添付文書に従う(多くは室温保存可)
- 低血糖時は速効性糖質を適量摂取
保存方法や使用期間は製剤により異なるため、
「必ず主治医・薬剤師に確認」 を促すのが安全です。
患者支援の実践|“寄り添いながら支える”関わり方
行動変容ステージに合わせた声かけ例
- 前熟考期:「まずは今の生活の中で気になる点を一緒に整理しましょう」
- 熟考期:「もし改善するとしたら、どこから始めるのが良さそうですか?」
- 準備期:「今日からできる一歩を一緒に見つけましょう」
- 実行期:「続けられていて素晴らしいですね。どこがうまくいっていますか?」
小さな“できた”を肯定するフィードバック
例:
- 食事記録を1日つけられた
- 間食が1回減った
- 10分散歩できた
これらを“たったこれだけ”ではなく、
“次につながる大事な一歩” として肯定することが継続を生みます。
地域・家族との連携(愛知県の実例)
愛知県内では、地域糖尿病連携パスや医科・歯科・薬局・栄養士との多職種連携など、地域ごとに様々な取り組みがあります。
看護師の役割:
- 地域包括支援センター・かかりつけ医との情報共有
- 病院→診療所→在宅へのシームレスな連携
- 家族との橋渡し支援
Q&A|現場でよくある質問に回答
■甘いものは完全にやめるべき?
→ 頻度・量・タイミング調整が現実的。食後に少量、週数回など。
■外食が多い患者には?
→ 主食量の調整、野菜追加、揚げ物頻度の調整で負担なく改善可。
■運動の時間が取れない?
→ “ながら運動”や短時間の歩行でも、積み重ねで血糖改善が期待できる。
■低血糖が怖くて動けない
→ SMBGを活用し、“安全に動ける血糖の範囲”を共有。補食の基準を明確に。
まとめ|糖尿病ケアは“継続”を支える看護にかかっている
糖尿病ケアは、医療者の何気ない声かけや小さな支援が、
患者さんの行動変容に長期的な影響を与えます。
“続けられる支援”こそが、最も重要な看護実践です。
本記事の内容は、明日からの患者指導にそのまま活かせます。
あなた自身の専門性やキャリアアップにもつながる指導力として役立ててください。
※注意書き
本記事は糖尿病に関する一般的な情報提供を目的としています。
具体的な治療・薬剤調整・食事/運動の大きな変更を行う際は、
必ず主治医・薬剤師など専門職にご相談ください。